個別供給方式は、家庭用あるいは業務用の一般消費者に個別に容器などを設置してLPガスを供給する方式のことです。
一般的なLPガス、プロパンガスのボンベが置かれている形式でお客様にガスをお届けする形ですね。
個別供給方式に対して集団供給方式というのもありますが、こちらは別記事となります。
記事のもくじ
丸覚えキーワード
- 供給設備と消費設備
- LPガス容器の設置方法
- LPガス容器の標準ガス発生能力
- ガス機器ごとのガス消費量
- 容器設置本数の計算方法
- 圧力損失を考慮した配管施工
- LPガス容器の設置ルール
キーワードの解説
個別供給方式の販売方法としては体積販売と質量販売の二つの方法があります。
ガスメーターを設置してLPガスを販売するのが体積販売
一般家庭の場合は体積販売がほとんどですね。
ボンベにガスを充てんして、入った量で販売するのが質量販売
たこ焼きや焼きそばなどの火を使う屋台などの燃料として役に立っています。
裏側にはボンベが置いてあるので、機会があれば見てみて下さい。
※LPガスは自由料金なので、この値段もあるかもしれませんが、今回つけた金額については適当です。
供給設備と消費設備
体積販売と質量販売でそれぞれ区切りが異なります。
体積販売の場合は、
ボンベからガスメーターの入口までが供給設備、
ガスメーターの出口からガス機器までが消費設備と定義されてます。
質量販売の場合は、
ボンベからガス機器までが消費設備として定義されています。
質量販売はボンベも渡しているのでどのくらい使ったかについては関係ないんですね。
ガスメーターがあるかないかで考えるのが良いでしょう。
LPガス容器の設置方法
容器1本立て設置、容器2本立て設置、自動切換式調整器を利用する場合などの様式があります。
容器1本立ての場合は、交換する際にガスが使えなくなるので消費者にとってはとても不便ですし、使い切るギリギリに交換したいものの、ガス切れになって機会損失が起きたり、頻繁に交換にこなければならない供給側にとっても不便です。
そのため、容器2本立て設置または自動切換式調整器を利用した形での供給が基本となります。
容器2本立て設置の場合は単段式調整器を挟んで連結用高圧ホースで使用側と予備側を連結して使用側と予備側を切り替える方式、自動切換式調整器の場合は使用側のガスの残りが少なくなってきた際には予備容器からガスが供給されるため、ガス切れを起こすことなく、消費を中断することなく容器の交換が可能になります。
また、自動切換式調整器を使用すると、標準ガス発生能力も高くなります。
LPガス容器の標準ガス発生能力
個別供給の場合は蒸発器などは使用せず、外気温の蒸発熱を利用することで気化させるため、ガスの発生能力が季節によって変わる。
この蒸発器を使用しない気化方式を自然気化方式と呼びます。
ポイントは下記の5点。
- 外気温の影響を受ける
- 外気温が高いとガス発生能力は多くなり、外気温が低いとガス発生能力は小さくなる
- 蒸発熱が外部から供給されるため、結露や着霜があると阻害される
- 液量が少なくなると発生能力も小さくなる
- 液が接している壁面から蒸発熱が供給されるため、表面積の低下=熱供給の低下につながる
イメージとしては下記のような形です。
周囲から熱を取り込んでいるイメージ図
プロパンの液化温度は-42℃、ブタンの液化温度は0.5℃のため、ガスボンベは周りの空気に比べて冷たいです。
外気温が0℃以上であればプロパンおよびブタンは沸騰して蒸発します。
この熱を取り込むのは外気と接しているボンベなのですが、ボンベの中身がたくさんある時は外気と接している面が大きいため、たくさん熱を吸収できて中身をあっためることも簡単なのでガスの発生能力が高くなります。
ガス機器を使用してボンベの中身が減ってくると熱を取り込む面積も小さくなるので、ガスの発生能力が落ちてくるという理屈です。
また、プロパンの方が先に蒸発するのでブタンの濃度が高くなることもあり、より蒸発しにくい中身になる可能性もあります。
もちろん、外気温が高い夏場の方がガスの発生能力は高く、冬場の方がガスの発生能力は低くなります。
ガスをたくさん使うのは冬場なんですけどね。
参考として自動切換式調整器を使用して50kg容器1本あたりの標準ガス発生能力[kg/(h・本)]も掲載しておきます。
※ピーク時間1hの場合
気温 | 5℃ | 0℃ | -5℃ |
い号ガス(PP95%以上) | 5.50kg | 4.40kg | 3.40kg |
い号ガス(PP80%以上) | 4.20kg | 3.20kg | 2.10kg |
ろ号ガス(PP70%以上) | 3.10kg | 2.10kg | 1.05kg |
ろ号ガス(PP60%以上) | 2.30kg | 1.40kg | - |
※PP・・・プロパンおよびプロピレンの合計量
温度が高ければ高い程、プロパンおよびプロピレンの濃度が高い(残液が多い)ほどガスの発生能力が高いことが分かるかと思います。
い号ガス、ろ号ガスとありますが、
ガスの中にある成分がプロパン及びプロピレンの合計量の含有率が80%以上であれば「い号ガス」、
60%以上80%未満であれば「ろ号ガス」と呼びます。
余談ですが60%未満は「は号ガス」です。
どのガスにおいてもエタン及びエチレンの合計量の含有率は5%以下、ブタジエンの含有率は0.5%以下であることが定められています。
◆
単段式調整器を使用する場合の標準ガス発生能力は自動切替式調整器を使用するよりも低くなります。
なぜ標準ガス発生能力を把握しておく必要があるのか?
それは、個別供給でガス切れを起こさないために何本設置する必要があるのかを計算するために必要な知識だからです。
ガス機器ごとのガス消費量
ガスが使えるのは一般消費者にとっては「当たり前」なのですから、供給側としてはガスが使えない事態を起こすわけにはいきません。
お風呂に入りながら、床暖とストーブとファンヒーターをつけてキッチンでは強火で揚げ物をしているし、ガス炊飯器はご飯を炊き上げている、洗濯物を乾かすガス乾燥機がぐるんぐるん回っている・・・
全てのガス機器がまとめて動くことは、レアかもしれませんが、レアな状況でもなんとかなる量のガスが供給できればいいわけです。
フルで動いた時に必要になるガス=個別ガス機器が必要とするガス消費量の総和
であるため、個別のガス機器が必要とするガスの消費量はどういったものなのでしょうか。
最大ガス消費量
一般的なガス機器の標準ガス消費量です。
ガス機器別標準ガス消費量の参考値
- ガス給湯機:1号あたり約2.2kW
※1号とは1分間に1Lの水を25℃温度上昇させる能力のこと
※給湯暖房機の場合は1号あたり約2.7kW - ガスファンヒーター:3.5kW
- ガスストーブ:3.3kW
- ガス乾燥機:5.2kW
- グリル付テーブルコンロ:9.7kW
ガス給湯器はひとり暮らしだと大体16号、ふたり暮らしで20号、ファミリーで24号くらいが目安です。
ガス機器のガス消費量の目安が分かったので、お客さんが使っているガス機器が具体的に分かれば、必要なガスの消費量も分かりそうですね。
ようやく容器を何本置けばいいのかが計算できそうです。
容器設置本数の計算方法
標準ガス発生能力やガス機器ごとの消費量を元に設置本数の計算方法が公式としてあります。
容器設置本数=最大ガス消費量÷{標準ガス発生能力〔kg/(h×本)〕×14}
標準ガス発生能力、ピーク時間などの条件を定めれば計算ができます。
計算例
まずは計算するための条件から
- い号ガス(PP95%)を利用する
- 気温を0℃とする
- ピーク時間を1時間とする
- 50Kg型容器を利用する
- 設置する燃焼器
24号給湯暖房機:64.8kW
グリル付テーブルコンロ:9.7kW
ガスファンヒーター:3.5kW
上記の条件で適切な設置本数を計算する場合は
最大ガス消費量(5の総和)78÷{標準ガス発生能力(PP95%、気温0℃)4.4Kg×14}=1.266…
となるため、使用側に2本を直列で設置して予備側にも2本設置の合計4本設置するのが適当となります。
圧力損失を考慮した配管施工
ガス機器は2.0kPa~3.3kPaで効率的にガスを燃焼させるように設計されて開発されています。
この範囲の圧力以外で供給された場合は、不完全燃焼が起きる可能性があります。
ボンベは高圧ガスであり、それを低圧に調整するのが調整器ですが、調整器からガス機器までの道のりは、ガスメーター、そして通路である配管を通ることになります。
この道のりの中で圧力が2.0kPa以下にならないように設定するのが配管を施工する腕の見せ所であり、道のりの中で失われる圧力のことを圧力損失といいます。
下図は調整圧力と供給圧力の関係を示しています。
圧力損失の主な原因となるのは以下の5つの項目です。
圧力損失の原因となる項目
- 配管などの摩擦抵抗
- ガスメーター
- 配管などの立ち上がり、立ち下り(高さ1mあたり、約7.8Pa※)
- バルブ、継手などの挿入物
- ガス栓
※プロパン80%、ブタン20%の時の圧力損失の概算
また、配管の中を流れるLPガスの流量が多くなるほど、また比重が大きくなるほど大きくなります。
LPガス容器の設置ルール
設置本数が決まり、配管についても考えた上で設置するLPガス容器。
安全にガスを利用するために必要なルールを覚えておきましょう。
- 内容積が20L以上の容器は屋外(25L未満かつ寒冷地であれば屋内でも可)
- 2m以内にある火器を遮る措置を取る。
- 腐食防止の塗装をすると同時に風通しの良い湿気が少なく水はけの良い場所を選ぶ。
(直接地面に置くと湿った土が底部の腐食を進めるため、コンクリートなどを設置する) - 夏季においても40℃以下に保つために直射日光に長時間さらされる場所は避ける。
(難しい場合は不燃性の隔壁や屋根を設けて直射日光を遮る措置を取る。) - 転落、転倒などの衝撃を与えない、物が落ちてこない場所に設置する。
全体的に頷けるルールではないでしょうか。
たいてい家の裏側とか、隣家の間に置かれているのは、4を満たすため。
1.の例外は寒冷地の場合はガス発生能力が低下する可能性が高いからですね。
転倒防止対策
50kg型容器の場合は1/4、3/4の2か所の鎖で固定する。
あそびは少なく。
10kg型、20kg型の場合は、容器のプロテクターの開口部に鎖などを通して取り付ける。
試験前にチェック
- 体積販売と質量販売ってそれぞれどういった販売方法?
- 体積販売と質量販売のおもな違いって何?
- 体積販売と質量販売における消費設備の違いは?
- 標準ガス発生能力についての特徴は?
- い号ガス、ろ号ガスって何が違う?
- 自然気化方式ってどういうこと?
- 設置本数を決めるための基準(計算式)は?
- 調整器を超えてからガス機器までの〇〇〇〇は0.3kPa、〇に入る文字は何?
- 設置についてのルールはどういったものがある?